相続債務
共同相続人に認められている抗弁権
被相続人が負っていた債務は、相続によって共同相続人が合有します。ドイツの民法では、積極財産だけでなく、消極財産(債務)も互いに結びついた形で共同相続人に帰属します。つまり、債務の合有者(Gesasmthändler)として履行の責任を負います。ここが日本の民法との大きな違いです。先ほど説明したように、共同相続人はこれに加えて連帯債務者(Gesamtschludner)としての責任も負います(2058 条)。この連帯債務者としての責任は、相続人の固有の財産にも及びます。
先ほど説明した相続人の各種の抗弁権は、共同相続人にも認められます。このため、共同相続人は、相続開始直後や債権届出期間中の請求を拒めるほか、除外の抗弁や不足の抗弁によって相続債権者からの請求を拒むことができます。民法はそれに加え、共同相続にからむ重要な抗弁権を共同相続人に与えています。
遺産分割前
共同相続人は、遺産分割が行われるまでの間、相続財産以外の財産から相続債務を支払うことを拒むことができます(2059 条 1 項)。共同相続人が合有している遺産が(まだ)存在し、共同相続人の固有の財産には混入していないのだから、相続債権者は遺産から債権を回収することで足りる、という趣旨です。このため、相続債権者から連帯債務の履行を請求する訴訟(Gesamtschludklage)を起こされても、遺産分割が行われるまでの間はこの抗弁権で守られます。つまり、相続債権者は共同相続人の固有の財産には強制執行することができません。たとえ共同相続人が無限定の責任を負う場合であっても、その人の相続割合の範囲でしか請求できないとされています(2059 条 1 項 2 文)。例えば、相続割合がの共同相続人に対しては、相続債権者は債権額のについてしか請求できません。
その一方で、相続債権者はたとえ遺産分割が終わっていなくても、相続財産から債務を弁済することは請求できるとされています(2059 条 2 項)。この訴訟は「合有訴訟」(Gesamdhandklage)(ZPO 747 条)と呼ばれ、先ほどの連帯債務の履行を請求する訴訟とは区別されています。
遺産分割後
遺産分割を行う際には、その前にすべての相続債務を弁済しなければなりません(2046 条)。相続債務の履行期が到来していない場合や債務について争いがある場合は、将来に備えて相続債務の分を留保しておく必要があります。
しかしながら、実際には遺産の分割後にも相続債務が残っていることがあります。共同相続人には連帯して債務を履行するという責任だけが残っていますが、すでに相続財産は遺産分割によって消滅しており、遺産分割前のように「相続財産からだけ支払う」という抗弁は成り立ちません。
そこで民法は、以下の相続債権者については、共同相続人の相続割合に応じた範囲でしか請求できないことにしています(2060 条)。これは責任財産を限定するのではなく、相続債権(債務)を法律で分割することにした結果です。
・債権届出手続において届出をせず除外された相続債権者 1
・相続開始後 5 年を経過した後に請求をおこなった相続債権者
これによって、遺産分割の際にはわからなかった相続債権者が後日になって請求をしてきた場合、共同相続人の各人が連帯債務者として全責任を追及されることがないようにしています。
脚注
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民法は、遺産裁判所における届出催告手続のほかに、共同相続人が 6 か月間の期間を定めて私的な届出催告をおこなうことを認めています(2061 条)。この期間内に届出をおこなわなかった相続債権者の請求権も法律によって分割されます。 ↩