ドイツ相続法情報室

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遺産分割

遺産の合有とは


遺産は共同相続人の共同体に帰属する

遺産は相続人が共同で所有します。といっても、通常の共有とは異なり、合有(Gesamthand)と呼ばれる特殊な共有とされています。

合有の場合、各人の持分が他の共同相続人の持分と固く結びつけられており、共同相続人は自分の遺産の持分を処分することができません。遺産は相続人の共同体に帰属し、相続人個人の財産とは区別された、独立の存在として扱われます。ただし、この共同体は、遺産が分割されるまでの間だけ存続する一時的なものにすぎず、法人格も与えられていません。

この相続人の共同体がおこなう遺産の管理と処分については、以下の3つのルールがあります。

-① 個々の遺産は共同相続人全員の合意がなければ処分できない

-② 通常の管理に属することについては、共同相続人の過半数で管理も処分もおこなうことができる

-③ 緊急の場合は共同相続人のうちの一人が管理も処分もおこなうことができる

処分には共同相続人全員の同意が必要

共同相続人が合有している個々の遺産を処分Verfügung)するには、共同相続人全員の合意が必要です(2040 条 1 項)。ここでいう「処分」は、個々の遺産の譲渡や担保の設定などを指していますが、賃貸借契約の解除や相続債務の相殺なども処分に含まれます。

「全員の同意」といっても、共同相続人全員が一同に会して合意する必要はなく、各人が個別に同意することでも足ります。また、他の共同相続人全員の同意が得られれば、共同相続人のうちの一人が代表として個別の遺産を処分をおこなうことができます。

通常の管理は共同相続人の過半数の同意で対処できる

通常の管理」(ordnungsmäßige Verwaltung)に属する事項については、共同相続人の過半数の賛成で必要な行為をおこなうことができます(2038 条 2 項→745 条 1 項)。ここで言う過半数は、共同相続人の頭数ではなく相続分の割合を意味しています。

遺産についての重要な変更は「通常の管理」とは言えません。このため、例えば、損傷した建物を再築することは過半数で決めることができません。しかし、こうしたケースは稀だと思います。個々の遺産について対処が必要になるケースの多くは「通常の管理」に該当すると思います。こうした場合に該当すれば、共同相続人全員の同意は不要です。

「過半数の同意」と書きましたが、相続人の共同体には会社や組合のような組織的な裏付けがないので、同意を得る方法に決まりはありません。

過半数の同意には一部の共同相続人に対する委任(授権)も含まれるのが通常だと思います。このため、委任された共同相続人が対外的にも共同相続人の代表として行為することができます。

この「通常の管理」にからんで、長年にわたり解釈上争われている問題があります。それは、「通常の管理」において処分が必要となるときも過半数の同意でおこなえるのか、という問題です。処分における全員同意のルール(2040 条)と通常の管理における過半数同意のルール(2038 条)の関係が問われているのですが、通常の管理と言えればたとえ処分が必要になる場合であっても過半数の同意で足りる、とする裁判例が増えています。こうした解釈のもとで、銀行口座を解約することや賃貸借契約を解除することも「通常の管理」として過半数の同意で認められています。

緊急の必要性があれば共同相続人の一人が対処できる

緊急に管理の必要がある場合、それぞれの共同相続人が必要な行為をおこなうことができます(2038 条 1 項 2 文後半)。ただし、「通常の管理」といえる事項に属していることが前提です。緊急性が認められない場合は、共同相続人の過半数の同意をもとに対処するほかありません。

費用の負担と果実の帰属

最後に、遺産の管理に要する費用と遺産が生み出す果実(利益)の帰属について説明しましょう。

遺産の管理に要する費用(Lasten)は、共同相続人の各自が相続割合に応じて負担します(2038 条 1 項→748 条)。このため、一人で費用を支払った共同相続人は、他の共同相続人に補填を請求することができます。

他方、遺産が生み出す果実(Flüchte)は、相続人の共同体に帰属します。各共同相続人は遺産分割のときまで一部を自分に渡すよう求めることができません。ただし、遺言による遺産分割の禁止などの理由で、遺産分割を 1 年内におこなうことが不可能な場合は、果実の分配請求権が認められます。

別のルールが適用されるケース

ここで紹介した遺産の管理と処分に関するルールは、遺言執行者が任命されている場合は適用されません。さらに、被相続人が遺言で共同相続人うちの一人に遺産の管理権限を与えることもできる、とされています。また、共同相続人が全員で合意すれば、誰かに管理を委任することもでき、その場合は受任者が管理の権限と責任を持ちます。

ドイツ民法における遺産の管理と処分に関するルールは、日本民法の共有物の管理・処分のルールに枠組みが似ているので理解しやすいと思います。ただし、ここでも細かく見ていくと違いが目につきます。遺産が生み出す果実の扱いも日本とは違っていますが、これは共有と合有の違いに起因するものなので、当然と言えば当然です。