遺留分
配偶者の遺留分
被相続人が配偶者を相続人に指定せず、遺贈も行わなかった場合、配偶者は遺留分を請求できます。しかし、配偶者の遺留分に関しては、実務上も重要な論点がいくつも存在します。夫婦の財産について2つのルールが存在することが話を複雑にさせています。
配偶者の遺留分額を計算する際にはまず、配偶者が法定相続の場合にどれだけの財産を取得するかを計算しますが、その際には剰余財産制における加算は考慮に入れないことになっています。法定相続割合のところで説明したように、婚姻生活中に増やした財産(剰余財産)を共有することにしていた夫婦では、法定相続の場合、残された配偶者の相続割合にが加算されます(1371 条 1 項)。しかし、遺留分の計算ではこの相続割合の加算を考慮に入れません。配偶者と子が法定相続人となるケースでは、配偶者の法定相続割合はなので、この場合の配偶者の遺留分額はその半分、つまりになります。これは「小さな遺留分」と呼ばれています。
ただし、剰余財産制だった配偶者が相続人に指定されず、遺贈も受けなかった場合、配偶者には夫婦生活中に現実に生じた剰余について清算を請求する権利があります(1371 条 2 項)。この剰余清算請求権は、日本民法でいう財産分与請求にあたりますが、ドイツでは死亡に伴う財産分与請求を認めているのです。このため、剰余財産制だった配偶者は、相続人に対し、先ほどの「小さな遺留分額」と「死亡に伴う財産分与」を足し合わせた額を請求することができます1。
こうした制度になっていることから、剰余財産額(=財産分与額)が大きくなるケースでは、配偶者にとっては法定相続分を受け取るより、相続を放棄して「小さな遺留分+財産分与」を請求をおこなった方が得になることがあります。具体例(Box/Walker S.349)で説明しましょう。
被相続人 E には配偶者 F と 2 人の子がいます。被相続人と配偶者は剰余財産制の夫婦でした。遺産総額は、剰余財産額はです。このケースで、法定相続の場合と配偶者が相続放棄した場合の取得額を比較します。
法定相続の場合、配偶者 F の法定相続割合はです。したがって、F の取得額はになります。
配偶者 F が相続を放棄した場合、剰余財産清算金としてを取得できます。加えて遺留分も請求できます。遺留分率はなので、遺留分額は \times 1/8=137,500€1,375,000€$を取得できます。
このケースでは配偶者 F にとっては相続を放棄したほうが有利になります。
話がさらに込み入って来ますが、配偶者にはもう一つ有力な選択肢があります。遺言による配偶者の取得額が遺留分額に満たないことを理由に、不足する部分を追加遺留分として請求する、という選択肢です(追加遺留分については後ほど説明します)。この追加遺留分の計算では、剰余財産制の夫婦に適用されるの加算分を考慮に入れた「大きな遺留分」が基準になるため、この方が有利になることもあります。
ややこしい話になってしまったので、ポイントを整理します。
- 剰余財産制の配偶者が法定相続する場合
→ 配偶者はもとの相続割合にを追加した割合の財産を取得する
- 遺言で配偶者が相続人に指定されなかった場合(・相続を放棄した場合)
→ 配偶者は剰余財産清算金との加算がない「小さな遺留分」を請求できる
- 遺言で相続人に指定されたが遺留分額に満たない場合
→ 配偶者はを追加した相続割合による「大きな遺留分」との差額を追加遺留分として請求できる
どれも少しずつ違います。配偶者はこれらの選択肢のなかで自分に有利なものを選ぶことになります。このため、相続にのぞむうえでの基本的な方針決定が重要な意味を持って来ます。相続法に詳しい弁護士に相談してアドバイスを受けることが欠かせない所以です。
脚注
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解釈上争われているのは、剰余財産制だった配偶者がの加算をおこなった後の相続割合を基準とした「大きな遺留分」を請求できるのか、という問題です。「小さな遺留分+剰余財産清算金」と「大きな遺留分」のどちらが得になるのかは遺産の額と財産分与の額に左右されるので一概には言えませんが、配偶者が「大きな遺留分」の請求もできるとすれば配偶者の選択肢は増えます。しかし、判例・通説は「大きな遺留分」の請求はできない、としています。 ↩