法定相続
法定相続人になる人
日本の民法が法定相続を中心としているため、「相続人」というと日本人は法定相続人を思い浮かべてしまいますが、そこは頭を切り替えていただく必要があります。「法定相続はあくまで二の次」と考えてください。法定相続制度は、被相続人の遺言または相続契約で相続人が指定されなかったときに初めて適用されます。なお、被相続人が一部の割合についてだけ相続人を定め、残りを法定相続に委ねることもできます。
ドイツの法定相続のルールは日本の民法と似ていますが、相続人と相続割合の決め方は日本より少々複雑です。順を追って説明していきましょう。
法定相続人になる血族
被相続人と血族関係(Verwandtschaft)がある人の相続権につい説明しましょう。
血族の相続権については、「親系主義」と呼ばれるルールに基づいて相続の順位が決められています。血族の関係は親から子へ、子から孫へ、と続いていきます。それを家系図にすると三角形のような図になりますが、その家系図に属する人を一括りにしたうえで法定相続の順位を決める、という決め方です。
最初に法定相続の権利を得るのは、被相続人を頂点とする家系図に属する人、つまり、被相続人の子、孫、曾孫・・・という人たちです。その中でも被相続人との関係が最も近い人が優先されます。通常は被相続人の子ですが、子のなかに被相続人より先に亡くなった人があればその人の子、つまり被相続人の孫が亡くなった子の代わりに法定相続人になります(代襲相続)。孫が先に亡くなっていた場合にその子、つまり被相続人の曾孫が代わりに相続人になります。
法定相続人になる被相続人の子孫が誰もいない場合は、被相続人の両親を頂点とする家系図に属する人に相続の順番が移ります。その中ではまず、被相続人の親が相続人になります。親が先になくなっていた場合は親の子、つまり被相続人のきょうだいが法定相続人になります。きょうだいのなかに被相続人より先にに亡くなった人があればその人の子孫が代襲相続人になります。
被相続人の親を頂点とする家系図に属する人のなかに法定相続人になる人が誰もいない場合は、被相続人の祖父母を頂点とする家系図の中に入る人に法定相続権が移ります。その中にも法定相続人になる人が誰もいなければ、頂点となる人をさらに先代へ引き上げます。それによって、家系図はどんどん大きくなって行きますが、被相続人との血縁関係は逆に薄まっていきます。頂点をどこまで引き上げるのか、つまりどこまで遡るのかについて上限は設けられていません。
こうした決め方を「親系主義」(Parentelsystem)と呼んでいます。「同祖血族主義」とも訳されますが、同じ祖先をもつ血族を一括りにする決め方です。遺産はその家系図に属する人に引き継がれます。
各順位での決め方をもう少し詳しく説明しましょう。
なお、ここで説明するのは被相続人の血族の相続権についてです。配偶者には常に相続権が認められているので、別枠と考えてください。つまり、配偶者は血族の相続人とともに共同で相続することになります。ただし、これから説明するように、被相続人との血縁関係が薄い血族では配偶者の相続権が優先されています。その結果、血族の相続権が失われることがあります。
【第 1 順位】
最初の順位の相続人は、被相続人の子孫(子、孫、ひ孫などの直系卑属)です。例えば、被相続人に2人の子がいる場合、彼らが相続人になります。子のうちの一人が先に死亡していた場合は、その人の子(被相続人の孫)が代襲相続人になります。その孫もすでに死亡していた場合は、孫の子、つまり被相続人のひ孫が代襲相続人になります。代襲相続の回数に上限はありません。
「子」と書きましたが、養子も含まれます。ただし、養子の法定相続権についてのルールは日本と違うので注意が必要です。
まず、未成年者との養子縁組では、養子(とその子孫)と養親(とその血族)との間に法定血族関係が生じるので、養子は法定相続権も得ます。その反面で、実の両親との間の血族関係は消滅します(ただし祖父母など3親等内の血族の養子になった場合は消滅しません)。このため、養子縁組によって実の両親の相続については法定相続権を失います。
これに対し、成人になった者との養子縁組では、養親との間に法定血族関係が生じるだけで、養親の親族との間では血族関係が生じません(1770 条)。反面で、養子縁組後も実の親との間の血族関係は継続します。ですので、実の親の相続では引き続き法定相続人になります。
【第 2 順位】
次の順位は、被相続人の親とその直系卑属です。親がすでに死亡している場合は親の子、つまり被相続人のきょうだいが代襲相続人になります。きょうだいの中にすでに死亡している者がある場合は、その者の子が(再)代襲相続人になります。代襲相続の回数に上限がない点は第1順位と同じです。
先ほど三角形の家系図を使って説明しましたが、それで言うと第2順位では2つの家系図ができます。父と母という2つの頂点があるからです。父と先妻との間にも子がある場合など、2つの家系図が完全に重ならないこともあります。このため、2 つの家系図のそれぞれについてその家系図に属するの中から法定相続人を決めます。被相続人の両親の一方がすでに亡くなっていた場合は、亡くなった親の子、つまり被相続人のきょうだいが存命している親と共同で相続することになります。日本の感覚からすると不思議な共同相続ですが、よくあるケースです。後ほど説明しますが、こうした相続人の決め方は、各人の相続の割合にも影響してきます。
【第 3 順位】
次の順位は、被相続人の祖父母とその直系卑属です。祖父母がすでに死亡している場合に代襲相続人が相続する点はこれまでの順位と同じです。
ただし、被相続人の配偶者が相続人になっている場合は代襲相続の権利はなく、代襲相続人が得るはずの相続割合は配偶者の相続割合に付加されることになっています。つまり、被相続人の叔父や叔母には代襲相続人としての相続権が認められず、配偶者がその分を取得します。
【第 4 順位】
次の順位は、被相続人の祖々父母とその直系卑属です。この順位以降は法定相続人の決め方が変わります。
すなわち、祖々父母から順に、法定相続人を決めて行くのですが、祖祖父母が誰一人存命していない場合にだけ祖祖父母の子が法定相続人になります。つまり、祖々父母のなかに一人でも存命している人があればその人だけが法定相続人になります。存命中のひとが複数いれば均等割合で法定相続人になります。
祖々父母が全員すでに死亡していた場合は、その子が法定相続人になりますが、先ほどと同じように子が複数いれば均等割合で法定相続人になります。祖々父母の子もすべて死亡ししていた場合は、その子の世代が法定相続人になります。相続人と割合の決め方は同じです。
つまり、親等の近さを基準にして法定相続人を決めることになっています。
第 4 順位以降では、被相続人の配偶者の相続権が第 4 順位の相続権に優先します。つまり、配偶者が相続人となる場合は血族には相続権がありません。
【第 5 順位以下】
次の順位は祖々父母の親(祖々々父母)とその直系卑属です。この順位の血族もいない場合は、さらに上の世代に遡っていきます。この第 5 順位以下の相続のルールは第 4 順位と同じです。
こうして、配偶者がいなければ、第6、第7、第8・・・と相続人となる血族の範囲は限りなく広がっていきます。ただし、実際にこうした相続人を見つけられるかどうか、は別問題です。このために、法定相続人が誰もいない場合には国が相続人になる、というルールが存在します。それについては後ほど説明します。
なお、血族の間で結婚があり、子が生まれた場合のように、一人の人が複数の立場で法定相続人になることがあります。この場合は、複数の立場のそれぞれで得る相続の割合を足し合わせたものがその人の法定相続割合になります。つまり、重畳的に相続分を取得します。ただし、第 4 順位以降の相続分は足されません(1927 条)。
日本と違う点
以上のように、日本の法定相続人の決め方と一見すると似ていますが、重要な点で違いもあるのでその点をまとめましょう。
*それぞれの順位に属する人には代襲相続人も含まれる
日本とは違って、ある順位に属する人に代襲相続人が含まれています。例えば第2順位の法定相続で、親がすでに死亡していた場合はその子供、つまり被相続人のきょうだいが親の代わりに相続します。きょうだいのなかにすでに死亡している人があれば、死亡したきょうだいの子孫が代わりに相続します。これらはすべて「第2順位の相続人」という枠の中でとらえられます。
このため、亡くなった親の親、つまり被相続人の祖父母が存命していても、第2順位の相続人として相続する人があれば法定相続人にはなりません。祖父母は次の順位(第3順位)に属しているからです。
*人単位で考える
被相続人には子も孫もいない、被相続人の親の一方は存命中、もう一方の親は先に死亡していた、というケースを考えましょう。このケースでは、存命している親が法定相続人になるだけでなく、先に死亡していた親の代襲相続人も同時に法定相続人になります。つまり、存命している親と被相続人のきょうだいがともに法定相続人になります。相続の割合は存命している親が半分、亡くなった親の子、つまり被相続人のきょうだいが半分です。きょうだいが複数いれば均等に分けます。
ここから、異母・異父きょうだいとそうでないきょうだいとの間で相続割合に差が生じます。そのことは後ほど「法定相続人の相続割合」のところで説明します。
*代襲相続人の範囲に限定はない
代襲相続人の範囲に限定はありません。ですので、子、孫、曾孫と相続の権利が移っていきます。日本の場合、法定相続人になるはずのきょうだいがすでに死亡していた場合、代襲相続人になるのはその子に限られる(孫は代襲相続人にはならない)ので、この点でも違いがあります。ただし、第3順位以下では代襲相続人の相続権が制約されています。
*相続放棄は代襲の原因になる
後ほど説明しますが、相続放棄した場合はその子孫(子・孫・ひ孫・・・)が代襲相続人になります。この点も日本とは違います。
配偶者は常に法定相続人になる
配偶者(Ehegatte)は常に法定相続人になります。
ここでいう「配偶者」は、民法上の配偶者と人生パートナー法における人生パートナーをさします。
ドイツでは 2001 年 8 月以降、「人生パートナー法」(Lebenspartnerschafts-gesetz)に基づき、同性婚のカップルにも配偶者と同様の地位を認められるようになりました。この法律に基づいて「人生パートナー」(Lebenspartner)として届出した場合は、相続法でも「配偶者」として扱われます。ただし、2017 年 10 月以降は、同性婚と異性婚の間の区別なく婚姻が認められるようになりました。このため、現在は同性・異性の区別なく法律上の配偶者とすることができます。
配偶者は常に法定相続人になる、と書きましたが、ひとつだけ重要な例外があります。被相続人の死亡時に被相続人と配偶者の間で離婚訴訟がおこなわれていた場合です。この場合、配偶者には法定相続の権利がありません(1933 条)。ただし、離婚原因、すなわち「婚姻の破綻」(Scheitern der Ehe)が存在していたことが前提です(1565 条)。
ドイツの民法では、「婚姻の破綻」の有無をある程度、類型的に判断できるようにしています。それによれば、別居が1年以上続き、かつ、双方が離婚を望んでいる場合は「婚姻が破綻している」とみなされます。別居が3年以上続いている場合は、たとえ相手方の同意がなくても婚姻が破綻したとみなされます(1566 条)。何が「別居」に該当するのかについても民法に規定されています(1567 条)。それによれば、2人の間に家政的な共同(häusliche Gemeinschaft)が存在せず、(少なくとも)配偶者の一方がそれを復活させることを拒んでいる場合は「別居」に該当する、とされています。一つの屋根の下に住んでいても、こうした共同関係がなければ「別居」として扱われます。