準拠法と国際裁判管轄
どの国の法律が適用される?
日本とドイツで異なるルール
国境をまたぐ相続案件では、どの国の法律が適用されるのかが問題になります。これを定めているのは「国際私法」と呼ばれる法律です。そういう名前の法律があるわけではなく、どの国の法律を適用するかを決めるための法律をまとめてそう呼んでいます。日本では「法の適用に関する通則法」という法律がそれにあたります(他にもあります)。この国際私法で適用することになる法律を「準拠法」と呼んでいます。
国際私法は風変りな法律です。どの国の法律を適用するのかを決めるだけで、その先のことは決めません。どういう権利や義務があるのかについては、適用することにした法律に委ねています。そのうえ、各国が国際私法を定めているので、国によってルールが違っています。このため、互いのルールの間で矛盾が生じてしまうこともありますが、こうした場合に相互間の調整を図るための仕組みはほとんど存在しません。唯一あるのは「(適用することになる)外国法が(日本の)公序良俗に反する場合は適用しない」(通則法 42 条)という、いわば非常ブレーキにあたる規定です。「国際私法」といっても、その実は国内法でしかないのです。
国際私法についてもうひとつ知っておいていただきたいのは、どこの国の法律を適用するのかを決める方法です。世の中にはさまざまな問題があるので、どの国の法律を適用するのかを一律に決めることはできません。このため、国際私法では、法律関係の類型(「単位法律関係」と呼ばれています)ごとに、どの国の法律を適用するのかを決めています。この世の出来事(問題)にはもともと切れ目などなく、一続き、ひと塊のものです。国内の法律も法律関係の類型ごとに定められているわけではありません。しかし、国際私法ではそこに「単位法律関係」という枠をあてはめ、枠ごとに適用する国の法律を決めて行きます。こうしたパッチワーク的な決め方がうまく機能しないケースも出て来ますし、どこからどこまでがある「単位法律関係」に属するのかもはっきりしません。とくに、相続のようにさまざまな分野にまたがる事柄では、こうした準拠法の決め方が大きなネックになります。
以下では、国境をまたぐ相続についてどの国の法律が適用されるとされているのかを説明しますが、ここで説明した2つのこと、つまり、国際私法は各国が定めている国内法である、国際私法では単位法律関係という法律問題の類型ごとにどの国の法律を適用するのかを決めている、という点を呑み込んでいただければ、これから先の話は分かりやすいと思います。