準拠法と国際裁判管轄
遺言についての準拠法
遺言については、①遺言の成立と効力にかかわる問題、②遺言によってどのような事項を定められるのかという問題、③遺言で定めた事項の効力の問題がありますが、それぞれについてどの国の法律を適用するのかが定められています。
①の遺言の成立と効力は、遺言の成立にかかわる事項を判断する際にどの国の法律を適用するか、という問題です。遺言の能力、遺言の撤回、遺言の効力発生時期、遺言の取り消しなどの事項を指しています。こうした遺言の成立についての準拠法の決め方は日独で違っています。
日本の国際私法では遺言をしたときの遺言者の国籍があった国の法律を適用するとしています(通則法 37 条)。国籍が基準です。これに対し、ドイツの国際私法では、遺言を行ったときに被相続人が死亡したと仮定して決めることにしています(EUErbVO 24 条)。つまり、遺言時の常居所地が基準になります。ドイツの国際私法では準拠法を選択することもできます。
ただし、遺言の方式(形式的要件)については特別の法律(「遺言の方式の準拠法に関する法律」)が制定されています。遺言については決められた方式を満たしている場合にしか効力を生じませんが、方式上の理由で遺言が無効にならないようにするために、方式上の要件を緩和しているのです。遺言を書いた国の法律の方式に合致している、遺言者が遺言時または死亡時に国籍を持っていた国の法律の方式に合致している、遺言者が遺言時または死亡時に住所があった(または常居所があった)国の法律の方式に合致している、のいずれかの要件を満たせばその遺言は方式上の要件は満たしていることになります。不動産に関する遺言は不動産がある国の法律の方式に適合している場合も有効とされます。この法律は、「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」という 1961 年に締結された条約に基づき制定されたもので、ドイツ(EU)でもほぼ同様のルールが定められています(EUErbVO 27 条)。
②の遺言書で定めることが出来る事項については、相続に関する準拠法によって判断されます。
③の遺言で定めた事項についての効力は、遺言された事項に適用される準拠法によって判断されます。例えば、遺言で認知をした場合、認知の効力については認知について適用される準拠法によって判断されます。