相続からの離脱
相続放棄
相続放棄は 6 週間以内
遺言や相続契約によって相続人に指定された者、法律によって相続人とされている者(法定相続人)は、相続放棄(Ausschlagung)をおこなって相続関係から離脱することができます。代替相続人や代襲相続人も相続を放棄することができます。
相続放棄をおこなった者は、相続の関係ではすでに死亡していたものとして扱われます(1953 条)。その結果、相続人として指定されていた者が相続を放棄した場合は、相続人の指定が無効になります。ただし、代替(予備)の相続人が指定されていた場合はその者が相続人になります。法定相続の場合は、相続の放棄によって代襲相続が起こります。つまり、放棄した者の直系卑属が放棄したものに代わって法定相続します。この点は日本とは違っています。
相続の放棄は、相続を放棄することを記載した書面を遺産裁判所に提出しておこないます。管轄するのは、被相続人の常居地の区裁判所です(FamFG 343 条 1 項)。被相続人が死亡時にドイツ国内に常居所を有していなかったときは、被相続人のドイツ国内における最後の住所地の区裁判所が管轄します(同条 2 項)。相続放棄については、放棄する者の常居所の区裁判所にも管轄が認められています(FamFG 344 条 7 項)。ですので、放棄する人の常居所の区裁判所に放棄書を提出することもできます。この場合は、被相続人が死亡時にドイツ国内に常居所を有していた地域の区裁判所に放棄書が回付されます。
放棄書には公証人の認証が必要です。書面の提出は、相続を知ってから6 週間以内におこなわなければなりません(1944 条)。ただし、被相続人が外国に居住していた場合と相続人が外国に居住している場合は6 カ月に延長されます。遺言によって指定された相続人の場合、裁判所から遺言の内容を知らされたときからこれらの期間を計算します。遺産裁判所が遺言・相続契約の開封手続を行う場合は、裁判所が内容を明らかにしたときから期間を計算します。
放棄することができる期間が徒過した場合は、相続を承認したものとみなされます(1943 条)。
相続放棄による相続割合の変化
相続の放棄によって他の相続人の相続割合が変化しますが、遺言によって相続人と相続割合が定められているケースと法定相続のケースでは扱いが違って来ます。すなわち、遺言によって指定されている場合は、(代替相続人が定められていなければ)他の共同相続人の相続割合が同じ比率で増えます(2094 条)。これに対し、法定相続の場合は(相続放棄した者の代襲相続人がいなければ)放棄した者が相続開始時に存在しなかったものとして相続割合を計算し直します。
被相続人に(剰余共同制だった)配偶者と子が 2 人いるケースで説明しましょう。
このケースで被相続人が各人の相続割合をずつと指定する遺言をしていたとします。この場合、子の 1 人が相続を放棄すると、残った 2 人の相続人の相続割合が従前と同じ比率で増えます。2 人の相互間の比率を変えずに増やすので、相続割合はそれぞれずつに増加します。民法は「膨張する」(Anwachsen)という表現を使っています。
これに対し、法定相続による場合は、相続放棄がなければ配偶者(剰余財産制の加算がある)、子らずつでした。子の 1 人が相続を放棄すると(代襲相続人がなければ)もう1人の子の相続分が増え、配偶者も子もずつを相続することになります。
相続放棄の取り消し
ドイツ民法では、錯誤などを理由に相続放棄を取り消すことが認められています。承認の取り消しも同様です。被相続人が多額の負債を負っていたことがわかった場合に承認を取り消す、というのが典型例です。取り消しの意思表示は、錯誤などの取消原因を知った時点から 6 週間以内(外国居住の場合は 6 カ月)に、遺産裁判所に公証人の認証が付いた書面を提出しておこなわなければなりません(1954 条)。
相続放棄を取り消した場合は相続を承認したことになり、逆に承認を取り消した場合は相続を放棄したことになります(1957 条)。
相続の放棄と遺留分請求
ドイツ民法は、相続を放棄した相続人が遺留分を請求することを一定の場合に認めています。すなわち、後継相続人の指定、遺言執行者の任命、遺産分割方法の指定、遺贈・負担の制約がある場合です(2306 条)。これらの場合、相続人に指定された者は、これらの事情を知ってから 6 週間以内に相続放棄をおこなったうえで、遺留分の請求を行うことが許されます。
遺留分請求額は法定相続の場合の取得額のになりますが、重い制約が付された相続を受けるより、遺産の一部を遺留分として金銭で受け取ることを望むケースも多くあります。
配偶者が法定相続人になる場合も、相続放棄を検討する価値があります。法定財産制の配偶者が法定相続権(と遺贈を受ける権利)を放棄した場合には、離婚した場合と同様に、剰余財産の清算を請求することができるうえ(1371 条 2 項)、遺留分の請求もできるからです。法定相続人になる場合(と遺贈を受ける場合)より得になるのか否かは、ケースによるので一概には言えませんが、綿密な検討が必要になります。この点は後ほど、配偶者の遺留分のところで詳しく説明します。