ドイツ相続法情報室

お問い合わせ

相続からの離脱

相続関係から離脱するその他の場合


相続放棄に似た制度として、相続廃除、相続欠格、エルブフェアチヒトという制度があります。どれも法定相続人が相続から離脱する点で変わりがありませんが、適用の場面は異なります。

相続開始前

相続廃除(Enterbung)

被相続人が遺言などで法定相続人を相続から廃除することを指しています。これが消極的な相続人指定であることはすでに説明しました。

エルブフェアチヒト(Erbverzicht)

直訳すると「相続放棄」となります。相続開始後におこなう相続放棄(Ausschlagung)とは違うものなので、ここではドイツ語読みのまま表記しました。エルブフェアチヒトは、被相続人が生前に法律上の相続人となる者(推定相続人)との間で契約を結んで、相続を放棄してもらうことを指しています(2346 条)。意訳すれば「相続放棄契約」となります。契約は公正証書による必要があります。通常、遺留分を含むすべての相続権を放棄することを合意します。ただし、何らかの対価を支払うことが大半です。バリエーションとして、遺留分だけの放棄(2346 条 2 項)、相続人指定又は遺贈の受益の放棄(2352 条)を契約することもあります。

相続開始後

相続欠格(Erbunwürdigkeit)

「相続欠格」は被相続人に対する重大な非行を理由として相続人としての地位を取り消す制度です(2339 条)。日本と違って、地位の取り消しを求める訴訟を(欠格事由の存在を知ってから 1 年以内に)提起して判決を受けなければなりません。これは相続人の地位を否認する形成訴訟です。訴訟を提起できるのは、相続人の地位を取り消すによって何らかの相続法上の利益を受ける者です。地位を取り消す判決が確定した場合、相続開始時に遡ってその者への遺産の承継はなかったとみなされます(2344 条)。その結果、その者がいなければ相続していたはずの者が相続人になります(2344 条)。

相続持分の譲渡Übertragung des Miterbenanteils

相続人には個々の遺産を処分する権利がありませんが、自分の相続持分(Miterbenanteil)を処分する(譲渡する、担保に供するなど)することはできます。共同相続人として有する財産的な地位をまとめて譲渡するものです。ただし、譲渡できるのは相続財産に関する権利に関するもの限られ、譲渡によって相続人としての地位を完全に失うものではない、とされています。共同相続人には個々の遺産についての持分を単独で処分する権限はないので、相続持分の譲渡を受けた者も個別の遺産の持分を処分することはできません。遺産を合有する他の共同相続人との間で分割協議を行うことになります。

この相続持分の譲渡には公証人の認証が必要です。

共同相続人による相続持分の譲渡に関しては、他の共同相続人に譲渡された相続持分の買い取りを請求する権利が与えられています(2034 条)。つまり、自分に売るよう請求することができます。先買権(Vorkaufsrecht)と呼ばれる権利で、第三者が共同相続関係に入ることを防ぐために認められたものです。この先買権は、相続持分の譲渡を通知されてから 2 か月以内に行使なければなりません。権利を行使した場合、第三者に譲渡する価格と同じ価格で相続持分を買い取ることができます。

脱退(Abschichtung)

相続持分の譲渡に似たものに、「アップシヒツング」と呼ばれるものがあります。「層を分ける」という意味の言葉ですが、それでは意味が通じないので「脱退」と意訳しました。誰か特定の相続人に相続持分を譲渡するのではなく、相続持分を放棄して相続関係から脱けることを意味しています。共同相続人が脱退するとその人の相続持分がなくなり、他の相続人の相続持分がその分増えます。通常は対価の授受を伴います。一人を除いてすべての共同相続人が脱退すれば遺産の合有関係は終了します。脱退の合意には公証人による認証も不要です。このため、遺産分割に代わる方法として、実務ではこの方法がしばしば用いられます。

相続権売買(Erbschaftskauf)

ドイツ民法には相続権の売買について定めた条項もあります(2371 条以下)。これは単独相続人が相続人として有する財産的権利を第三者にまとめて譲渡する場合をさしています。