遺留分
補充的な遺留分請求権
被相続人の生前贈与によって遺留分請求権が空洞化してしまうことを防ぐため、(生前受益以外の)生前贈与も遺留分額の計算に一部反映させることになっています。遺留分請求の補充(Pflichtteilergänzung)と呼ばれています(2325 条)。追加遺留分の請求権と同じように遺留分の充実を図るための制度ですが、追加遺留分とは場面が異なります1。
遺留分算定の対象となる生前贈与は、被相続人が相続前 10 年間におこなった贈与です。相続人に対する贈与のほか、第三者に対する贈与もすべて含まれます。贈与の際に遺留分を害する意図があったか否かは問われません。ただし、倫理上の義務に基づくものや受贈者の状況に鑑みておこなったものは除外されます(2330 条)。
贈与はすべて遺留分算定に反映させるのではなく、相続時点から遡って1年前までの贈与は 100%、1~2 年前までの間の贈与は 90%、という具合に 1 年ごとに 10%ずつ反映させる部分を小さくして行くことになっています。ただし、配偶者に対する贈与については 10 年間という期間を離婚のときから計算します(2325 条 3 項)2。つまり、被相続人の相続時に夫婦関係にあった配偶者については、過去のすべての贈与が算定の対象となります。細かい話になりますが、
補充的な遺留分請求者自身が贈与を受けていた場合、遺留分請求額は贈与を受けた額を控除して計算します(2327 条 1 項)。
この補充的な遺留分請求に応じなければならないのは相続人です。ただし、請求を受ける相続人自身の遺留分額を上回る請求を受けた場合は、超過額部分の請求を拒むことができます(2328 条)。この場合、生前贈与を受けた者が補充的遺留分について遺留分の請求に応じなければなりません。複数の受贈者がいる場合は、相続開始時に近い受贈者から順番に過去に遡って行くことになっています(2329 条 3 項)。
脚注
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被相続人が契約した生命保険契約がこの補充的な遺留分請求の対象となることがしばしばありますが、金額の計算方法をめぐっては考え方の対立があります。判例は相続開始時の解約返戻金額が基準になるとしています。 ↩
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贈与された物の評価は消費物については贈与時の評価額により、それ以外の物(不動産など)については贈与時と相続開始時の評価額を比較したうえでどちらか低い額による、とされています(2325 条 2 項)。贈与時の評価額はその後のインフレによる物価変動により修正します。不動産の贈与のケースで、被相続人が贈与後も賃料収入などを取得することが前提とされている場合は、贈与後の平均余命中に期待される収益額を控除した残額が贈与額とされます(判例)。 ↩