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遺留分

遺留分制度のあらまし


被相続人の配偶者と近親者が遺言などで相続人に指定されなかった場合、法定相続の場合に取得できる財産額の1/21/2遺留分(Pflichtteil)として請求できます(2303 条)。日本の民法にならって「遺留分」と訳しましたが、直訳すると「義務部分」という言葉です。

遺留分請求権は金銭的な請求権とされ、個々の遺産に関する物権的な請求権を生じさせるものではないとされています。この点は現行の日本民法と同じです。ただし、遺留分額の算定方法にはかなり違いがあります。

遺留分の請求権者

遺留分を請求できるのは、被相続人の配偶者(・登録パートナー)、直系卑属、親です(2303 条)。ただし、直系卑属は法定相続人になる立場にある人に限られます。親の遺留分請求権も直系卑属に法定相続人がいない場合に限られます(2309 条)。

後継相続人の指定、遺言執行者の任命、遺贈・負担、遺産分割方法の指定がなされた相続では、相続を放棄した者も遺留分を請求することができます(2306 条 1 項)。遺留分の請求であれば、遺贈を無視した遺産の正味の財産額の一定割合を金銭で受け取れるため、重大な制約がついた遺産を相続するより相続人にとっては有利になることがあります。相続放棄の期間は通常と同じ 6 週間ですが、遺言執行者や遺贈などの制約を知ったときから期間を算定します(2306 条 2 項)。

ただし、遺留分請求権者が遺留分請求権を喪失することもあります。

ひとつは、相続欠格事由(2339 条)により相続人の地位が取り消された場合です(これについては相続放棄のところで説明しました)。同じ理由で遺留分請求権だけ喪失した場合も含まれます(2345 条 2 項)。

被相続人との間で相続しない旨の契約(エルブフェアチヒト)をおこなった者も遺留分を請求できません。ここには遺留分を請求しない旨の契約も含まれます(2346 条 2 項)。

法定相続人が被相続人、その配偶者、親族に対して重大な非行を働いた場合は、被相続人は遺言でその者の遺留分を喪失させることができます(2333 条)。遺留分のはく奪(Entziehung)です。民法は以下の事由をはく奪の要件として定めています。

・被相続人またはその近親者の生命に危害を加えたとき

・被相続人またはその近親者に対する重罪または重い故意による軽罪を犯したとき

・被相続人に対する扶養義務を悪意で怠ったとき

・ 1 年以上の自由刑(実刑)に処せられ、遺産を承継させることが被相続人にとって受忍できない(unzumutbar)とき

はく奪は遺言でおこなう必要があり、遺言書に理由も書かなければなりません。はく奪の事由が存在することについては、遺留分の喪失を主張する者が立証責任を負います。

遺留分の支払義務者

遺留分の支払義務を負うのは、遺言により相続人に指定された者です(受贈者が遺留分の支払義務を負う場合もあります)。複数の相続人がいる場合は連帯債務を負います(2058 条)。

ただし、先ほど説明したように、共同相続人は遺産分割までの間、相続した財産以外の財産からの支払いを拒むことができます(2059 条)。ですので、遺産分割を行う前は合有する遺産から遺留分を支払えば足ります。

遺産分割後はこうした保護はありませんが、相続人自身が遺留分の請求権を持っている場合は、それを超える部分だけ支払えば足ります(2319 条)。

遺留分の請求に応じることによって、住居を失う、生計の基礎となる財産を売らなければならなくなる、などの過酷な事態が生じる場合、相続人は支払の猶予を求めることができます(2331a 条)。ただし、遺留分請求権者の利益も適切に考慮しなければならない、とされています。支払を猶予しても、遺留分の支払いを行う見通しが立たない場合は猶予を求めることができない、と解されています。遺留分について争いがないケースでは遺産裁判所が猶予を与えます(2331a 条 2 項)。争いがあるケースでは地方裁判所が猶予についても決します。

相続人が遺留分の支払義務を負う、と書きましたが、遺留分の支払義務を負う負担を義務者の間でどのように分担するかは別問題です。共同相続人の間では相続割合に従って負担を分担するとされており、受遺者も取得した財産の比率に応じて遺留分を負担しなければならなりません。ただし、遺留分の負担は共同相続人自身の遺留分額が限度とされており、それを超えてまで負担する義務はありません(2319 条)。受遺者が法定相続人として遺留分請求権を有する場合も同様です(2318 条)。

遺留分の請求は 3 年内

遺留分請求権は、相続の開始と遺言などによる遺留分の侵害について知ったとき(または重過失により知らなかったとき)の年末から 3 年内に訴訟を提起して行使しないと時効で消滅します(195 条)。遺産の内容や価値について知っていたか否かは無関係とされています。

また、相続開始から 30 年間を経過すると、遺留分権利者の認識の有無にかかわらず請求権が消滅します(199 条 3a 項)。

時効の成立を防ぐためには、遺言により相続人に指定された者を被告として遺留分請求訴訟を提起する必要があります。相続人がわからない場合は、遺産裁判所に対して遺産保護人(Nachlasspfleger)の選任を請求したうえで、その者に対して訴訟を提起することができます(1961 条)。

遺留分請求訴訟では、ステップ訴訟(Stufenklage)という訴訟形態(ZPO 245 条)が用いられるのが普通です。第 1 段階として遺産や生前受益などに関する情報の提供を求める、第 2 段階として遺産の評価(査定)を求める、第 3 段階として宣誓供述を求める、第 4 段階として算定された遺留分額の支払いを求める、という請求を一つの訴状でまとめて行い、訴訟を追行するなかで遺留分請求額を明確にして行くという形態の訴訟です。遺留分権者には、相続人に対して遺産に関する情報と評価の開示を請求する権利が認められています(2314 条)。評価(査定)のための費用は相続財産から支払われます。