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遺留分額の調整~遺留分の算定で直系卑属間の公平を図るための仕組み


法定相続の場合、直系卑属間では被相続人から生前に受けた受益分と寄与分の調整義務(清算義務)があることはすでに説明しました。直系卑属間の公平を図るためのルールですが、遺留分の算定でもこれらの調整義務が反映されます。算定に反映される受益と寄与の範囲は、法定相続人間で遺産分割を行う際に調整義務を負う範囲と同じです。生前受益は算定上の財産取得額を増額させ、寄与分は逆に減額させます。寄与分を除いた残りの財産を分割することになるためです。日本の現行民法のような期間の限定(死亡前の一定期間内の受益に限定する)はありません。

こうした「調整」(Ausgleichung)とは別に、被相続人が出捐(Zuwendungen)を行う前又は出捐の際に、遺留分を算定する際に考慮に入れることを明示した場合もその出捐分も考慮に入れます(2315 条)。民法はこれを「算入」(Anrechnung)と呼んでいます。この「算入」は直系卑属に対するものに限られません。

以下、遺留分の算定に反映する方法について説明します。

まず、生前受益と寄与分を考慮に入れてそれぞれの相続人(直系卑属)が法定相続の場合に取得するであろう財産取得額を計算します(あくまで計算上の取得額です)。

直系卑属のなかにこの計算上の財産取得額を上回る生前受益を得た者があった場合は、遺留分の算定ではこうした相続人を除外して、つまりこうした相続人がいないものとして扱います。超過する受益額を現実に返す(持ち戻す)義務を負わないことは、遺産分割時の生前受益の調整義務と同じです(2056 条)。

被相続人が遺留分算定に反映させることを明示しておこなった出捐分の「算入」については、計算上の扱いが異なります。すなわち、算定上の財産額を算定する際に考慮に入れるのではなく、当該遺留分請求者の遺留分額を算定する際に考慮に入れます(2315 条 2 項)。ただし、この出捐が調整義務の対象でもある場合は、調整義務の対象として考慮したうえで、さらに当該遺留分請求者の遺留分額を計算する際にも考慮します。つまり、2 重に評価することになるので、後者での考慮は出捐額の半分にとどめられます(2316 条 4 項)。

日本の実務でおこなわれている計算方法とはだいぶ違うことがおわかりいただけると思います。かなり複雑なルールなので具体例(Brox/Walker S.353)で説明します。

被相続人 E は X を単独の相続人に指定しました。E には妻 F と 3 人の子 A ・ B ・ C がいます。遺産の総額は8,0008,000€です。子 A は E の生前に5,0005,000€の生前受益、子 B は1,0001,000€の生前受益を得ていました。子 C は1,0001,000€の生前贈与を受けましたが、その際に被相続人から「算入」を義務付けられました。この生前贈与は同時に、調整義務の対象となる生前受益にも該当します。

この事例では各相続人の遺留分額を以下のように計算します。

  • 配偶者 F の遺留分額 1,0001,000€

  法定相続の場合の相続割合 1/41/4

  遺留分率 1/4×1/2=1/81/4 \times 1/2=1/8

  遺留分額:8,000×1/8=1,0008,000€ \times 1/8=1,000€

(配偶者の遺留分額は子らの間でおこなわれる生前受益の調整とは無関係に計算します。「算入」も配偶者には関係ありません)

  • 子 A の遺留分額 00€

(3 人の子が法定相続の場合に取得する財産の合計は6,0006,000€です。これに、A の生前受益5,0005,000€、B の生前受益1,0001,000€、C の生前受益1,0001,000€を加えると13,00013,000€になります。各相続人の計算上の取得額はその1/31/34,333.334,333.33€です。A の生前受益5,0005,000€は法定相続の場合の遺産取得額を上回っているため、A には遺留分がありません)

  • 子 B の遺留分額 1,5001,500€

(A の離脱で B と C が法定相続の場合に受け取る財産額が変わります。A が遺留分の算定では A がいないものとして扱われるため、B と C の取得額は6,0006,000€に B と C の生前受益を加えた8,0008,000€を基礎として計算することになります。A の離脱により法定相続人は 2 人になったので、B と C の取得額はそれぞれ4,0004,000€です。ここから B の生前受益1,0001,000€を引いた3,0003,000€が B の法定相続の場合の財産取得額になります。B の遺留分額はその1/21/2です)

  • 子 C の遺留分額 1,0001,000€

(C も法定相続の場合の財産取得額は4,0004,000€です。ここまでは B と同じです。しかし、C は「算入」を義務付けられた贈与1,0001,000€を受けているのでそれを考慮する必要があります。この贈与は調整義務としてすでに計算に反映させていますが、C の遺留分を算定する際に贈与額の1/21/2を差し引く必要があります。つまり、C の遺留分額は、1,5001,500€から500500€を引いた金額になります)