遺留分
遺留分額の算定方法
遺留分額の算定方法
遺留分額をどうやって算定するかを説明していきましょう。
算定のする際に基準となるのは法定相続割合ですが、相続放棄、相続の廃除、相続欠格によって相続人でなくなった者も頭数に入れて計算します(2310 条)。ただし、被相続人との契約で相続を放棄(エルブフェアチヒト)した者は計算に入れません。
遺留分額を算定する際に基準となる財産額は、被相続人の積極財産の評価額から消極財産(葬儀費用なども含む)の評価額を差し引いた正味の遺産評価額です。この計算では遺贈と負担による積極財産の減少分は考慮にいれません。つまり、遺贈と負担がなかった場合の正味の財産額の一定割合が遺留分として確保されます。言い換えれば、遺留分請求権は遺贈と負担の請求権に優先します。
遺留分額を算定するための財産評価では、相続開始時が基準時となります(2311 条)。ただし、補充的遺留分を算定する場合の生前贈与の財産評価では別の基準が適用されます(2325 条)。
生前受益と寄与分の調整(清算)
法定相続の場合、被相続人から直系卑属が生前に受けた受益分と寄与分を調整(清算)する義務があることはすでに説明しました。相続人間の公平を図るためのルールですが、遺留分額の算定でも直系卑属間では生前受益と寄与分の調整がおこなわれます。
算定に反映される生前受益と寄与分の範囲は、遺産分割における調整の場合と同じです。生前受益は算定上の基準となる財産額を増額させ、寄与分は逆に減額させます。調整の対象となる受益や寄与についての期間の限定はありません。
こうした「調整」(Ausgleichung)とは別に、算入(Anrechnung)と呼ばれる調整の仕組みもあります。
これは、被相続人が出捐(Zuwendungen)を行う前又は出捐の際に、遺留分を算定する際に考慮に入れることを明示した場合におこなわれる調整です(2315 条)。この「算入」は直系卑属に対するものに限られず、算定の方法も少し変わっています。
調整の方法
以下、これらの調整を遺留分額の算定に反映する方法について説明します。細かい話になるので、最初に全体の流れを説明しましょう。
まず、それぞれの相続人(直系卑属)が法定相続の場合にどれだけの財産を取得するかを計算します。その際には、生前受益と寄与分を考慮に入れます。この計算上の財産取得額から、その相続人が得た生前受益分を引いたもの、もしくはその相続人に配分される寄与分を足したものが法定相続の場合の(計算上の)取得額になります。遺留分額はその 2 分の 1 です。
ただし、直系卑属のなかにこの計算上の財産取得額を上回る生前受益を得た者があった場合は、遺留分額の算定ではこうした相続人を除外して、つまりその相続人がいないものとして扱います。超過する受益額を現実に返す(持ち戻す)義務を負わないことは、遺産分割時の生前受益の調整と同じです(2056 条)。
被相続人が遺留分額の算定に反映させることを明示しておこなった出捐分の「算入」については、計算上の扱いが異なります。すなわち、計算上の財産取得額を算定する際に考慮に入れるのではなく、当該遺留分請求者の遺留分額を算定する際に、つまり計算の最後で遺留分額からその分を差し引きます(2315 条 2 項)。ただし、出捐が調整義務の対象でもある場合は、調整義務の対象として考慮したうえで、さらに当該遺留分請求者の遺留分額を計算する際にも考慮することになるので二重に評価することになってしまいます。このため、後者での考慮は出捐額の半分にとどめられます(2316 条 4 項)。
少し複雑なので具体例(Brox/Walker S.353)で説明しましょう。
被相続人 E は X を単独の相続人に指定しました。E には妻 F と 3 人の子 A ・ B ・ C がいます。遺産の総額はです。子 A は E の生前にの生前受益、子 B はの生前受益を得ていました。子 C はの生前贈与を受けましたが、その際に被相続人から「算入」を義務付けられました。この生前贈与は同時に、調整義務の対象となる生前受益にも該当します。
この事例では各相続人の遺留分額を以下のように計算します。
- 配偶者 F の遺留分額
法定相続の場合の相続割合
遺留分率
遺留分額:
配偶者の遺留分額はです。子らの間でおこなわれる生前受益の調整とは無関係に計算します。「算入」も配偶者には関係ありません。
- 子らの遺留分額
3 人の子の法定相続割合はそれぞれなので、合計でです。したがって、3 人が法定相続の場合に取得する財産の合計はになります。遺留分の算定で基礎になるのは、このに、A の生前受益、B の生前受益、C の生前受益を加えたです。したがって、それぞれの子の計算上の取得額はそのであるです。
A は生前受益を得ています。これは法定相続の場合の遺産取得額を上回っているため、A には遺留分がありません。
A が離脱するので、B と C が法定相続の場合に受け取る財産額を計算し直します。すなわち、遺留分の算定では A がいないものとして扱います。B と C の取得額は、これに B と C の生前受益を加えるとになりますが、これが新たな計算の基礎となります。A の離脱で計算上の法定相続人は 2 人になったので、B と C の取得額はそれぞれです。
B が法定相続の場合に得るであろう額は、ここから B の生前受益を引いたです。したたって、B の遺留分額はそのであるになります。
C も法定相続の場合の財産取得額はです。ここまでは B と同じです。しかし、C は生前受益にあたるを受けているのでそれを差し引きます。その結果、計算上の取得額は、遺留分額はその1,500€$となります。
ただし、C の生前受益は被相続人によって「算入」が義務付けられているので、それを差し引かなければなりません。ただし、その生前受益は遺留分を算定する際に計算の基礎としてすでに考慮されているので「算入」で差し引くのはにとどめられています。つまり、C の遺留分額はからを引いたです。