ドイツ相続法情報室

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遺言は、ドイツの相続法において中心的な役割を果たしています。ドイツ民法は 16 歳以上の者に遺言をおこなう能力(遺言能力)を認めています(2229 条 1 項)。ただし、17 歳以下の者が遺言を行う場合には公証人などの補助が必要とされています(ちなみに日本の民法は 15 歳以上の者に遺言の能力を認めています)。

遺言には、公証人が関与して作成する「公的な遺言」と自筆で作成する「私的な遺言」の 2 種類があります。順次説明していきましょう。

公的な遺言

公証人が関与して作成する遺言は「公的な遺言」(Öffentliches Testament)と呼ばれています。通常は公証人が作成した書面に公証人と遺言者が署名することで遺言書が作成されます。日本で言う公正証書遺言です。何らかの事情で遺言者が署名できない場合は、証人又は別の公証人が署名します。公証人は遺言者の遺言能力を確認したうえで、遺言内容の法的な意味について遺言者に説明し、疑問点があれば質問する職責を負っています。そのうえで、遺言者の最終的な意思を何らかの方法で確認しますが、意思の表示は口頭には限定されず、書いたもので意思を示すこと、身振りで意思を示すことも認められます(2232 条)1。なお、日本とは違って証人の立会は要件とされていません。つまり、(公証人以外の)誰にも知らせずに公的な遺言をおこなうことができます。

遺言者が公証人に書面を提出し、それを公的な遺言とすることも認められています(2232 条)。パソコンで作成した遺言書でも構いませんし、弁護士などの第三者が作成した書面であっても構いません。遺言の内容を公証人に見せず、つまり封印したうえで公証人に渡すことも可能とされています。ただし、この場合は公証人から遺言の内容について法的な助言を受ける機会は失われます。

このように、「公的な遺言」はいくつかの方法で作成できます。「公的な遺言」は「公証人が作成に関与した遺言」を意味しています。

遺言の作成後の扱いも日本とは大きく違っています。

ドイツでは、公証人が関与して作成された遺言書は公証人が封印し、区裁判所に保管を依頼することになっています。被相続人には保管証明書が交付されます(遺言者はいつでも保管中の遺言書を返してもらうことができます)。遺言書の存在は遺言記録センター2の記録簿(Zentraler Testamentsregister)に記録され、被相続人の出生地の住民局(Standesamt)に通知が行きます。

記録センターには全国各地の住民局から死亡者の通知が入るようになっており、センターは死亡者の遺言を保管しているか否かを照合します。記録がある場合は遺言書を保管している区裁判所に対して死亡の事実を通知します。これを機に、裁判所が遺言書の開封手続を行います。開封の期日は、法定相続人などに通知されますが、通常は誰も出席しません。

開封後、裁判所は遺言の内容を確認したうえで、遺言で相続人に指定された者、相続人から廃除された者、遺贈を受ける者、遺言の執行を委ねられた者などに遺言書の内容を伝えます(FamFG 348 条)。つまり、これらの者に裁判所から遺言書のコピーが送付されます。

裁判所での開封手続では、遺言書が有効か無効かについて裁判所が判断をすることはありません。その点では、日本の遺言書の検認制度に似ています。

私的な遺言

自筆遺言は「私的な遺言」(Privates Testament)とも呼ばれます。方式上の要件は極めてシンプルで、全文を自書する署名をおこなうという2つだけです(2247 条)。どのような物に書いても、どのような方法で書いても構いません。外国語で書いたものも有効です。署名は姓と名の両方を書くことが推奨(soll)されています(2247 条 3 項)が、例えばファーストネームだけでファミリーネームを欠いた署名であっても、誰の遺言者であるのかが明確であれば有効な遺言とされています。ただし、署名は文章を締めくくるものなので、文書の最後になければなりません。

遺言を書く際、ペンを握る手を支えるなどの介助は認められるとされています。ただし、遺言者が自らの意思でペンを動かしたと認められない場合は自書とはいえない、とされています。

民法では作成日と作成地についての記述も推奨されていますが、遺言の方式上の要件とはされていません。つまり、日本の民法とは違って、作成日が欠けていてもそれだけの理由で遺言が無効になることはありません。

この自筆遺言も裁判所に保管を求めることができますが、必ずそうしなければならないことはありません。裁判所が保管していなかった遺言書については、相続開始時に遺言書を所持していた人が裁判所に遺言書を提出しなければならない、とされています(2259 条)。裁判所がおこなう開封手続は公的な遺言の場合と同じです。

緊急時に作成する遺言

このほか、緊急時にのみ作成できる遺言があります。自治体の首長の面前で作成する遺言、3 人の証人の前で聞き取り書きして作成する遺言、航海中の(ドイツ船籍の)船舶上で作成する遺言です。それぞれ特別の方式と有効期間が定められています。

夫婦で作成する共同遺言

ドイツでは、夫婦で共同の遺言を作成するケースがよくあります。共同遺言(gemeinschaftliches Testament)と呼ばれる遺言ですが、夫婦(と登録パートナー)にだけ許された特殊な遺言です(2265 条)。

共同遺言の内容については特段の制約はありませんが、「ベルリン遺言」と呼ばれる遺言(2269 条)が広く知られています。これは、夫婦が互いに相手方の配偶者を単独の相続人に指定するとともに、その配偶者が死亡した後に財産を引き継ぐ後継相続人も指定しておく、という内容の遺言です。後継相続人には夫婦間の子が指定されることが大半です。相続の開始時に配偶者がすでに亡くなっていた場合には後継相続人が最初から相続人になることも定めておきます。つまり、この共同遺言を行えば、遺された配偶者の生活の基盤を確保するとともに、夫婦の財産を確実に子に引き継ぐことができます。

共同遺言は夫婦間の互いの約束でもあります。ただし、相続契約とは違ってあくまで遺言なので、理由がなくても一方的に撤回することが認められています(ただし、撤回は公正証書によらなければなりません)。撤回されると、それに対応する相手方配偶者の遺言も効力を失います。しかし、夫婦の一方が死亡した後は、残された配偶者が遺言を撤回することはできません。

遺言は自由に撤回できる

遺言の撤回Widerruf)についても説明しておきましょう。過去の遺言を撤回するという遺言をしたとき、遺言の内容と抵触する処分をおこなったとき、作成した遺言書を破棄したときに撤回が認められます。これは日本とほぼ同じですが、ドイツでは裁判所が保管していた遺言書の返還を受けたときも撤回とみなされます(2256 条)。裁判所は遺言者の求めがあれば保管している遺言書を返還しますが、一度返還した遺言書を再び預かることはしません。つまり、裁判所から返還を受けることは遺言書を破棄するのと同じ意味があります。

「撤回は自由」と書きましたが、遺言書で相続人に指定された者がそのために被相続人に何らかの利益(対価)を渡していた場合は、遺言の撤回によって不当利得返還請求権が発生する、とされています(判例)。相続への期待が法的に保護されていることになります。何でも自由、というわけではないのです。

【コラム】ドイツには二種類の公証人がいる

ドイツでは全国で約 6500 人が公証人として仕事をしています(2024 年 1 月時点)。この数は日本の約 14 倍です。どのような人が公証人になるのか、という点でも日独には大きな違いがあります。

ドイツには 2 種類の公証人がいます。専門職として職務をおこなっている公証人(「公証人」)と弁護士として仕事をする傍らで公証人としても職務をおこなっている公証人です。後者は「弁護士公証人」と呼ばれています。地図にグレーで塗られた部分が(専門職の)「公証人」、紺で塗られた部分が「弁護士公証人」が仕事をしている地域です。どちらも司法試験に合格した法曹資格者であることには変わりがありませんが、任命の方法が全く違います。一つの国のなかに、州によっては一つの州のなかに全く違った公証人の任命方法が併存している、というのは少なくとも外目には不可思議です。

2種類の公証人任命制度を示した地図
(連邦公証人会)

専門職の公証人は、3 年間、公証人のもとで試補官として職務を学んだあと、(公証人の空きが出た)公職役場に配属されます。誰を試補官として採用するかは、応募者のなかから州司法省、公証人会、上級地方裁判所が協議して決めます。試補官として働いている期間は、裁判官試補官と同等の給与が支払われます。

これに対し、弁護士公証人になるためには、公証人採用試験を受けて合格する必要があります。試験を受けるためには、弁護士としての経験を 5 年以上積んでいるなどの要件を満たさなければなりません。この試験での成績だけでなく、司法試験での成績も参照されます(前者が 60%、後者が 40%の比重)。この試験に合格したあとで、公証人のもとで一定時間の研修を受け、ようやく公証人として仕事をおこなえるようになります。ただし、自分が弁護士としてかかわる案件において公証人として仕事をすることは禁止されています。

2024 年現在、専門職の公証人が約 1500 人、弁護士公証人が約 5600 人います。これらの公証人が相続案件だけでなく、不動産取引など重要な取引には契約書の作成には必ず関与することになっています。公証人は、当事者の意思を確認するとともに、必要な助言をおこなっています。

脚注

  1. 連邦憲法裁判所は、書くことも話すこともできない人が遺言をすることできない制度は基本法(ドイツ連邦の憲法)に違反する、と判断しました(1999 年 1 月 19 日決定 - 1 BvR 2161/94 (BVerfGE 99, 341))。この決定を受けた 2002 年の法改正によって、話すことも書くこともできない人であっても、何らかの方法で公証人に意思を表示すれば公的な遺言を作成できるようになりました。

  2. 遺言記録センターは公証人法に基づき連邦公証人会(Bundesnotarkammer)が運営しています。